モール泉

秋から掘削していた現場で昨年末、無事温泉が湧出しました。驚きはその温度、なんと95度もあります。弊社でこれまで掘削してきた温泉の中でも最高に熱い温泉です。色はやや褐色で、いわゆるモール泉と思われます。

掘削し温泉が出ることがわかってまずするのが、「揚湯試験」と「成分分析」です。揚湯試験は、揚湯量を何段階かに分けて汲んでみて、それぞれの動水位の変化からその井戸での適切な揚湯量を見極めるためにします。それから、その温泉がどういう泉質なのかを調べるためにするのが成分分析で、弊社ではいつも「北海道立衛生研究所」に分析をお願いしています。今回も遠路はるばる札幌からお越しいただき、温泉を採取してもらいました。

弟子屈町は広い範囲で温泉が湧出していますが、その泉質にはいくつか地理的特徴があります。まず他と違い特異なのが川湯温泉の強酸性硫黄泉です。すぐ近くで今も噴煙を上げている硫黄山(アトサヌプリ)の影響で、硫黄の香りが強く、pHは2以下の強酸性、色は少し白濁し青みがかって見えます。でも、こうしたお湯が湧いているのは川湯温泉街の限られた場所だけで、弟子屈町のその他の温泉はどちらかというとアルカリか弱アルカリで、あまり成分の多くない単純温泉が主流です。

弟子屈町全体でもう一つ言える傾向は、町の北側の温泉は無色透明であるのに対し、南の方に行くにしたがって微褐色の色がついている温泉が多くなるということです。その微褐色の色が何に起因するかというと、植物などが長い間バクテリアなどに分解されて出来た腐植物質で、具体的にはフミン酸やフルボ酸などです。これが「モール泉」と呼ばれています。弟子屈町の褐色の温泉が、腐植質あるいはフルボ酸由来であるということは、北海道立衛生研究所の方々の論文に詳しくあります。上記道立衛生研究所のサイトで「弟子屈町中央部に湧出する温泉に認められた微褐色の着色要因」という文章をご覧ください。(トップページ以外へのリンクは手続きが必要なので、やめました。トップページから文言を検索するとすぐに見つかります。)
弊社で掘削した温泉の成分分析は毎回決まって北海道立衛生研究所にお願いするので、弟子屈町全体の温泉の傾向を把握されているのでしょう。
モール泉の詳しい解説についても、やはり道立衛生研究所の研究員の方が書かれている「北海道遺産モール温泉」をご覧ください。

私の住まいがある弟子屈町南部の熊牛原野に出る温泉もモール泉です。色がついているのが画像でわかるでしょうか。この温泉の成分分析書が以下のものです。

赤線で囲った部分に「微褐色澄明」とあります。澄明はあまり見慣れない言葉ですが「ちょうめい」と読み、水が透き通っている様を表現するようです。しかし、この分析表にはどこにも腐植物質のこともモール泉とも書かれていません。温泉の分析の方法や泉質の分類方法は環境省が定める「鉱泉分析法指針」に依るのですが、そこではモール泉という泉質の分類が無いのです。

あらためてこれまでの温泉分析書を見ていたら、平成9年以前の分析書には腐植質の記述は有りませんが、それ以後は「腐植質:検出せず」とか「腐植質:○○mg/kg」とかの記述が有るので、そこで指針が変わったのかもしれません。熊牛の分析書は平成4年でだいぶ昔です。

褐色の水というと思い出すのがイギリス北部スコットランドの川の水です。もう四半世紀も前のことですが、スコットランドにウィスキーの蒸留所巡りの旅をしに行ったことがあります。スコッチウィスキーの本を読んでいると、スコットランドの川の水はウィスキーと同じような褐色の色をしているとあり、実際に行ってみるとそうでした。

これはPitlochryという町のBlair Atholという蒸留所近くのダムの画像です。流れ落ちる川の水が緑褐色をしているのがわかるでしょうか。ピートと呼ばれる泥炭層を流れてくるのでこんな色になるとのこと。泥炭も植物が炭化したものですから、モール泉と色の由来は一緒だと言えると思います。釧路川の水もずっと下流の湿原の方に行くと茶色い色のところがあります。スコットランドの風景はとても道東に似ていると思いました。
横道にそれますが、当時はまだデジカメが普及する前で、この写真はエクタクローム(ポジフィルム)で撮影したのを今回スキャナーでデジタル化したのですが、さすがに古めかしい感じです。

近所に住むある女性は、越してきてモール泉に入るようになってから、冷え性が治ったと言っていました。それまでは寝る前に水道を沸かしたお風呂に入っても、布団に入る頃には手足が冷たくなりなかなか寝付けなかったけど、モール泉のお風呂に入るようになってからはそれがなくなり、体中ぽかぽかで布団に入った途端に寝付けるようになったそうです。その他、肌がつるつるになるという人もいます。毎日入るのに適した優しい泉質で、とても人気があると言えます。そして我が家のネコちゃん達も大好きです。入るのではなく飲泉のほうですが、私がお風呂に入っていると必ずやってきてお湯を飲んでいきます。人にもネコにも大人気のモール泉なのでした。

投稿者: 辻谷

有限会社 大道開発 代表取締役 宅地建物取引士・一級建築士 趣味は料理と音楽鑑賞(特にジャズ)